ニュースの概要
日本経済新聞は、美容医療分野で医師の求人が約6倍に増え、月収140万円といった高待遇の募集が目立つと報じた。保険診療を担う病院では、特定の診療分野で医師の確保が難しくなっているという。自由診療は価格を各院が決められるため、収益力の高いクリニックが人件費を上乗せしやすい。一方、救急や外科など負担の重い分野は、報酬に大きな差を付けにくい。こうした構図が、医師の進路選択をじわじわと動かしている。単なる給与格差の話にとどまらず、地域医療を誰が支えるのかという問題として、今後の議論が避けられなくなっている。
引用元: 「月収140万円」美容医療に流れる医師 求人6倍、診療分野の偏り拍車(日本経済新聞)
分析・見解
求人6倍は需要の急増と待遇の差が重なった結果
美容医療の市場は、施術の低価格化とSNSの普及で裾野が広がった。かつては一部の人が受けるものだった施術が、学生や会社員にも身近になっている。利用者が増えれば、施術を担える医師が足りなくなる。クリニックは人材を集めるため、報酬を高く設定する。月収140万円という数字は、こうした競争の表れである。
ただし、求人数が6倍になったことと、医師が6倍移ったことは別の話である。募集枠が急に増えた分、医師の総数に対する動きは見かけより小さい可能性がある。それでも、若手の進路選択に与える心理的な影響は大きい。
自由診療と保険診療で、価格の決まり方がまるで違う
保険診療の価格は国が決める。公定価格(=国が定めた料金表)であり、病院がどれだけ努力しても大きくは動かせない。夜間の救急対応や重症患者の手術は、拘束時間が長くても報酬が上がりにくい。
美容医療は自由診療で、各院が料金を決める。需要が強い施術に価格を乗せれば、医師への報酬も増やせる。この差は経営努力の差ではなく、制度の違いから生まれている。だから個々の病院が頑張っても、待遇競争では追いつきにくい。
医師の偏在は診療科だけでなく働く時間帯にも及ぶ
注目したいのは、人が動いているのが診療科の間だけではない点である。美容医療は予約制で、夜間や休日の呼び出しが少ない。同じ医師免許でも、生活の質は大きく違う。
働き方改革で医師にも時間外労働の上限が設けられた。長時間労働を前提にしていた病院は、人手不足を補えない。結果として、負担の重い現場から人が離れ、残った人にさらに負担が集まるという悪循環が生じやすい。これは製造業で、きつい工程から人が抜けて残る人の負担が増す現象とよく似ている。
規制と報酬設計の見直しが現実的な打開策になる
美容医療を制限すれば解決する、という単純な話ではない。医師の職業選択の自由があり、利用者の需要も確かにある。むしろ、救急や外科、小児科といった分野の報酬と環境を引き上げる方が筋が通る。
同時に、美容医療側にも安全面の課題がある。トラブルの相談件数は増えており、研修を十分に受けないまま施術に入る例も指摘される。参入のしやすさと質の担保を両立させる仕組みが求められる。人の流れを止めるのではなく、流れた先も流れ出た先も健全にする視点が必要である。
ビジネスへの影響
医療機関は報酬以外の魅力を言葉にして示す必要がある
給与で美容医療に並ぶのは難しい。そこで、勤務の見通しが立つこと、学べる症例が多いこと、当直明けの休みを確実に取れることなど、数字以外の価値を具体的に示すことが重要になる。
募集要項に「柔軟な働き方」と書くだけでは届かない。週に何日働けるか、当直は月に何回か、育児中の医師が実際に何人いるかまで書くと、応募者の判断材料になる。
一般企業も医療人材の流れを自社の採用に置き換えて考えられる
この構図は医療に限らない。介護、物流、建設など、負担が重い仕事から人が離れ、条件の良い仕事に集まる現象は広く見られる。自社の中でも、負担の大きい部署に手当と裁量を厚くしているか点検したい。
医療機関と取引する企業にとっては、人手不足の病院が業務の効率化に投資する好機である。予約管理、記録作成の自動化、事務作業の代行などは、医師の時間を取り戻す提案として価値を持つ。
